頭頂部痛

ある朝、目覚めると頭痛を感じた。
あるいは、頭痛で目覚めたのかもしれない。


 目覚めたばかりの意識はボーっとしていて、頭のどこが痛いのか特定できない。 しかし、寝床でジーっとしていると、頭痛の本体がだんだんと分かり始めてきた。

 

(頭頂部だ・・・やや左に寄っているか・・ブレグマに近い冠状縫合上に強く痛みを感じるな・・・)


 まだ覚醒しきっていないボンヤリした意識でも、さすがに痛みは別格である。目覚めてからわずか30秒ほどで、完全に事態を掌握した。


(珍しいな・・・頭頂部の痛みか・・・)


私も頭痛くらいは人並みに経験しているが、頭頂部痛の記憶はあまりない。というか、初めてではないだろうか・・・記憶を辿っても、思い出せないくらいだ。


(なるほど、これが頭頂部痛か・・結構痛いものだな、不快感も半端じゃない・・)


 頭頂部痛のクライアントは幾度も診たことがあるし、その大半は完全寛解させている。
 丁度良い機会である。悪性の病に至るものではないだろうし(直感的に分かる)、自分の身体で体感するのも悪くないだろう。


 というわけで、どの部位でどんな反応があるか、寝床で実験することにした。(これがホントの臨床だ・・・)


 まず、頭頂部痛の原因の第一位と言われている「頭板状筋」。
幸いにこの筋の重要ポイントは自分でも押しやすい位置にある。
指をあてがいゆっくり持続圧した。しかし、ピンとこない。そこが原因だ!的なあの独特な響きが全く感じられないのである。


(ふむ、頭板状筋ではないんだな・・・だとすれば、頭頂部痛の原因の第2位・・・胸鎖乳突筋か・・・)


 そう、前回のブログにも登場したあのフィクサー(黒幕)的筋肉である。なにせ、首から上のあらゆる症状に関与したがる、トンデモ筋の一つだ。さすがに頭頂部痛に関しては、頭板状筋の陰に隠れて、原因のトップではないが、決して少ないというわけではない。


さて、左側の胸鎖乳突筋を丹念に挟み押圧を繰り返していると、 あ~、ココだ!ココから来てる!と実感できる部位に行き当たった。胸鎖乳突筋の中央部からやや上である。


 耳中とも耳の後ろともなんとも特定し難い部位にまず響いていき、さらに目の奥を通って、そして、ゆっくりジワジワと、頭頂部に響きが到達した。


(くぅ~効くなぁ・・こりゃ間違いない、ココだ・・それにしても、なんでまた、こんなところのTPが活性化したのだろう? そういえば、昨晩は寝ながら随分長い間、動画を観ていたっけ・・それか・・それで首に負担をかけたか)


 などと原因について考えながら、数分間、セルフ・ケアした。  

 それだけでも痛みが半減したので、おもむろに寝床から這い出し、朝の身繕いを済ませ、安楽椅子に腰かけ、尚もセルフケアーに勤しんだ。


 5分ほどもしただろうか、さらに痛みは半減し、起床時から比べると2割から3割程度までに落ち着いている。


 充分に耐えられ、かつ日常生活に支障がないと思ったので、午前中の仕事に取り掛かったものである。


 そして小一時間ほどしてふと気が付くと、そのときには、もはや痛みは完全に消失していた。


 このことから考えるに、歪みの深さはさほどでもなかったようだ。(まあ、慢性化した難治性頭痛の処理ではないのだから当然である)


 それにしてもと思う・・・


 もし、この頭頂部痛を起こしている原因部位など思いも及ばず、当然、今回のような適切な処置を取れないでいたなら、どうであったろうか?


 初回であるから、自然に痛みは治まっていた可能性は高いが、もし、頭痛薬を服用し、治まったと仮定しよう。
 すると、後に何度か起きる頭頂部痛に対しても、同じ対処をするであろうことは目に見えている。


 やがて、薬は効きづらくなり、かといって良くする名案など浮かばず、効きづらくなった薬の錠数を増やすか、もし深刻な不快感が続けば、頭痛外来を訪れ、片頭痛薬を処方されて、ありがたく服用するハメに陥るか、である 。


 かくして薬の常用者が誕生し、お医者様と製薬会社関係者の生活の糧に貢献することになるのだが、それだけなら相互扶助の精神が息づいているわけだから文句をいう筋合いのものではない。


 問題は、真の原因をおざなりにした結果、それが原因で起きる頭頂部痛との関連など想像もできない病に侵され、一体なにが原因でこうなったのか見当も付かず途方に暮れてしまうかもしれないということである。
 さらに言えば、薬を連用することそのものの害が蓄積されてしまうかもしれない。


 なんと初期の頃には薬もメスも要らず、手で簡単に対処できたものであるというのに、である。


 ここまで読むと、論理の飛躍、コジツケだと憤慨する人もいよう。


 しかし、何十年もこの業界に身を置き続け、身体に問題を抱えた人々を診続けた結果、これらのことはなんら絵空事でもなく、現実に存在する、しかも数多い症例であることに確信を持っているのである。


 最初は些細なことから始まる・・・そして些細であるが故にそれを治めるに、薬のような飛び道具など要らない。
 小さな揉め事を話し合いではなく、いきなり暴力で解決しようとすればどうなるか? 報復の連鎖が始まり、最後は目も当てられない惨状となるではないか。


 悲しいことにそれが人類の歴史の一断面でもあるが、同じようなことを自身の身体で体現してしまって、医原病に苦しむ多くの人を見てきた。


 我々業界人が力をつけねばならない所以である。そんな状況に陥る人たちを少しでも少なくするために。

 

 力の及ぶ限り。

 

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