耳の中が痒い

 胸鎖乳突筋の話題が続いている。
 ついでといってはなんだが、もう一つ、胸鎖乳突筋が原因となる症状について述べてみたい。


 表題の「耳の中が痒い」である。
 経験のない方にはなんとも奇妙な症状に感じるかもしれない。また、それがどんなものであるか、想像もできないだろうと思う。

 

 痒みというのは、痛みと違って、どこかユーモラスで、深刻な感じがしないと思うが、それが継続的に続くと、生活に支障を来すほどの不快感がある。

 

 例えばアトピー皮膚炎。


 痒くなり出したら、血が滲むまでで皮膚をかきむしってしまうほど辛いという。そしてそれこそが禁断のステロイド剤に頼ってしまう元凶なのだ。


 痒みをバカにできない所以だが、それが耳の中で起きるとすればどうだろう?

 

 発狂しそうなくらいである。 なった本人がいうのだから、間違いないと思っていただきたい。

 

 実はわりと若い頃から、しばしばこの症状に苦しめられてきた。 その症状が胸鎖乳突筋からくるものだと知らなかったときからである。

 

 その頃の対処法は、想像つくと思うが、耳かきで必死に耳垢を取ろうとして、悪戦苦闘するのである。


 もとより、耳垢が原因ではないので、それらの対処は徒労に終わる。

 

 いくら頑張って耳の中の掃除をしても耳垢も出ないし、症状も収まらないものだから様々な浅知恵が浮かぶ。


 もしかすると、短い髪の毛が耳の中に入り込んで、それが悪さをしているのではないだろうか?


 そう思ったら居ても立ってもいられない。

 なんと掃除機を耳元に持ってきて吸い出そうとしたこともあった。 (危険!良い子は絶対にマネしないように)


 ことほど左様に不愉快で、心を乱される症状なのである。


 現在は原因が分かっているので、胸鎖乳突筋処理を自分で行い、短時間で症状を消失させている。 そして、症状が現れる頻度そのものが激減している。

 

 さて、何事も経験である。


 「耳の中が痒い」を主訴として来院したクライアントはいないが、別の症状で来られた方が(主訴 腰痛 40代男性)、ふとそ んなことを漏らしたことがあった。


 「今朝から耳の中が痒いんですよね」


 別にその症状をなんとかしてほしいというわけではなく、あくまで独り言のようにつぶやいたのだが、それを聞き逃すわけがない。


「えっ?耳の中が痒い?今朝から?それは頻繁にありますか?症状はどれくらい続きます?居たても立ってもいられないくらいの時もある?」


 矢継ぎ早に質問を放つと、クライアントは私が並々ならぬ興味を見せていることを知ったのか、そんなことに関心を持つのに少し驚きながら、数年前からあるということ、大したことがないこともあるが、痒いときは、耳の中を耳かきで引っ掻き回したくなり、事実、耳の中を傷つけ、少量の出血をみたこともあったと、いうことを詳細に説明してくれた。


 さらに質問を重ねる。


「それは風呂上がりになりませんか?髪を洗ったあととか?」


『あ、確かに・・・水が耳の中にはいってこんな痒くなったのかな、と思ったこともありましたから、そうです、そのときが多いようです』


 髪を洗うのにシャワーを使うのは常識だが、このとき頭を微妙に傾ける動作を続ける。日本のお風呂事情から言えば、自分の頭の位置よりも低いところにシャワーヘッドがある場合があって、そのときは最悪である。首を側屈したり、屈曲させたりで、胸鎖乳突筋の収縮を繰り返す。実はこのことが胸鎖乳突筋のTPを活性化させ、人によってはその奇妙な症状の元凶になるのである。

 

(間違いない、胸鎖乳突筋から来る耳の痒みだ)

 

「なるほどね、それの原因は、コリと関係あるかもしれませんよ、あと、首から上の症状で何か気になることはありますか?申告していないもので」

 

『う~ん、首から上ですか・・・そういえば、まぶたがピクピクしますね』


 「なるほど、あとはありませんか?めまいとか耳鳴りとか」


『いや、特に・・・あっ、年に一回くらいめまいがすることがありますね。すぐに治るので気にすることもなかったですが・・・』

 

 いずれも胸鎖乳突筋が犯人であることは、ご承知のことと思う。


 アフターカウセリングでその旨を説明して、腰痛とは直接関係ないが、今のうちに対処しておくことを薦めたことはいうまでもない。

 

 特に男性がめまい持ちになると、女性よりも治しづらく、重症化しやすい。そうなると、仕事どころではなくなり、収入の道が絶たれる。家庭崩壊の危機ともなろう。

 

 このように耳の中が痒いという奇妙な症状はそれ自体が辛いものだが、もっと深刻で執拗に苦しめる病の前兆とも捉えることができるのである。

 

 前回のブログと同じような結論になるのだが、大事に至る前に対処できれば、難治性で四苦八苦することもなくなる。

 

 これを東洋医学では「上工、良く未病を治す」(未病を治すのが名医である)という。

 

 癒やしの道を志したなら、上工を体現できる施術家になりたいと思うが、如何だろう。 

 

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