コリの正体

 植物細胞にみられる原形質流動は、その範囲を広げて考えるならば動物機能としてのアメーバ運動も同じ現象だと言える。(wikipediaより)


 そして、単細胞であるアメーバの動きは多細胞生物における一つ一つの細胞においても同様の性質を示し、各細胞において流動性を保っている。

 

 そもそも流動のメカニズムは原形質のゾル化(液状化)とゲル化(固体化)の相互作用によるものであって、それは筋肉の収縮と弛緩と同じ原理によっている。つまり、筋運動は原形質流動のマクロ化であると言っても良いし、逆に原形質流動は筋運動のミクロ化現象とも言えるのある。

 

 ゾル化(液状化)した原形質が流動し、次にゲル化(固体化)して流動性を失う。その繰り返しによって、規則的でかつ全体的な流動性を確保して”運動”を維持している。ここで、何らかの原因でゲル化したままであるならば、次に行われるはずのゾル化がないのであるから、その流動性は失われ、固体化のままということになる。すなわち、それがコリの正体である。


 しかし、このゲル状原形質は応力を与えることによって再びゾル化し、元の動きを取り戻すことが知られている。その応力とは圧力でも良いし、振動でも良い。


 この事実から、鍼の穿刺と捻転の機序を推測した増永師はさすがに医界の先達者であったと思う。

 

 当然、鍼だけにその原理が適用されるわけではなく、手技(徒手)療法においてもそのまま当てはまる。

 

 表層にとどまる近代按摩の曲技曲手に治病能力はない、と喝破した大田晋斎はそのアンチテーゼとして『女子供でもできる単純推圧』を提唱した。これは深層におけるゲル化を復元する力が曲技曲手にはないと経験則として知り得ていたからに他ならず、また真に問題を起こす部位は表層ではなく深部にあると表明していることにもなるのである。

 

 深部のおけるゲル化を復元するには大田晋斎がいう単純推圧が適当であるが、圧が浸透していく古方按摩の按法(持続圧)がさらに一段有効であることは論を待たないだろう。

 実に古人の知恵には脱帽する。

 

 また、振動が固定したゲル化をゾル化へ戻す原動力になるならば、揺らし整体の機序はそのまま正当性を有することになるし、フルフォード博士が使ったパーカッション・ハンマーが組織拘束除去に役立つものであることも肯けるのである。


 しかし、だからといって圧を否定する材料にはなるまい。一部の流派がいうところの圧やストレッチの否定は、軟部組織の流動性確保という観点からいえば、偏頗で浅慮と言わざるを得ないのである。

 

 流動性を失った組織はコリとなるのは述べたところであるが、これがやがてトリガーポイント化し、種々の要因が重なり活性化に至る。それが筋筋膜由来の痛みやシビレ、あるいは一部自律神経的症状の原因となることは今では広く知られたところであろう。

 

 このトリガーポイント活性を沈静化させるのに、間接的な圧反射を使っても良いし、また少々的外れであっても、周辺組織の血流確保によって、目的を達成することもある。しかし、一番効率的な方法は、そのトリガーポイントそのものに圧をかけ或いは振動させることは言うまでもない。述べてきたとおり、原形質の流動性を最短で確保できる方法に他ならないからである。

 

 我々臨床家にとっては学理の追及よりも、重症化したコリやトリガー活性を如何に緩和させるかの方がはるかに重要であろう。すなわち現場での実践力である。現に症状を呈し、苦痛を味わっているクライアントを目の前にして、雄弁に理屈を語ったところで、何の説得力もないことは臨床家なら実感しているはずである。俗にいう名人とも達人ともいうべき実力を備えた臨床家が求められるのはいつの時代も変わらない所以である。

 

 その要請に応えるべく、持続圧に拠る深部組織への到達、すなわち真の問題点の直接的なアプローチを提唱してきた。これによってゲル固定状態から直接的にゾル化が促され、いち早い症状の寛解を促すことができるようになったのである。


 さらに、パーカッション・ハンマーによる振動を併用すれば、圧刺激と振動刺激両面からの応力によって、より固着し重篤なゲル化組織を緩解せしめることが可能になる。


 ただし、急激な組織の軟化は血液の再灌流問題を生み出し、きつい瞑眩反応を招く恐れがないわけではない。両面作戦の運用にはそのことを考慮する必要があろう。

 

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