葛根湯施術(かっこんとうせじゅつ)

 まだ耐性菌の問題が表面化しおらず、抗生物質が細菌系の病に対して万能であると信じられていた頃、なんでもクロマイシン(ある抗生物質の呼称)を処方する医者がいて、それらの医者達をクロマイ医者と呼んで軽蔑したそうな。


 耐性菌の出現を早めたのはこれらクロマイ医者達に依るところが大きいかもしれない。やぶ医者恐るべし、である。

 

 実は漢方の世界でも似たようなやぶ医者を呼ぶ別称があって、それが葛根湯医という言い方であった。クロマイ医者と同じように、なんでも葛根湯を処方する医者のことである。

 

 ところが、北里大学東洋医学研究所初代所長の故大塚敬節先生は、漢方が西洋医学と根本的に異なる処を論じ、案外、葛根湯医は名医中の名医なのかもしれないとその著作に書かれておられた。

 

 その心はこうである。
 未だ修熟していない半人前の医者ほど、多くの処方を試したがる。しかし、その術、神妙の境地に達したくらいの名医ともなれば、わずか30種類あまりの処方で衆病を良く治したという。

 

 同じ処方でも一味加え、或いは一味引くという文字通りの匙加減によって患者の証にドンピシャ合わせていく見識はまさに神業的であって、これが出来てはじめて名医と言えるらしいのである。


 ならば、葛根湯だけをベースに、それを匙加減することによって全ての病に対応させていくことができるということは、もはや名医を超えた神医の域にあるのではないかと。

 

 大塚先生は多少皮肉を利かせて述べていたのだろうが、東洋医学的な本質をあますところなく伝えていた名文であった。クロマイ医者は絶対に名医にはなれないが、葛根湯医は名医だという見方もできるということ自体が本質の違いを表しているわけである。当時読んでいて(なるほどなぁ~さすがだなぁ)と感じ入った次第である。

 

 さて、あれから随分歳月が経って、私も手技法分野ではそこそこのレベルには達したと自負している。そしてあの葛根湯医の名文がより身に沁みて分かるようになってきた。

 

 例えば首肩の施術をするとする。これを見せれば、誰に対しても同じような技法で同じような施術をしているように見えるかもしれない。葛根湯のみをもって病に臨んでいるかのようだ。


 ところが、ヒトの首は千差万別。コリの度合い、コリの部位が微妙に違う。太さも長さも違うし、湾曲も違う。それらに適合させ、圧もドンピシャの施術を行い得たとすれば、コリのみならず、頭痛、眼病、ムチ打ち、ウツ病、パニック障害・・・その他、西洋医学的病名を用いれば100は軽く超える病気を緩和させ得るのである(前回のブログでも述べた)


 これは手技の本質が東洋医学的であることの証左であろう。
 西洋医が治療補助としてマッサージを処方することがあるが、西洋医学的観点だけで手技療法を考えていては、その治病能力を全く活かし切れないのである。


 手技療法が万能だという気はさらさらないが、少なくとも医療の一翼を担うくらいの実力を秘めた療法であることは、私の経験からも卒業生の症例からも断言できる。だから手技を賤業化してはならないのだ。賤業化されれば、その業界は劣化し、水準低下を招く。その結果、手技の真の実力の恩恵に浴する者がいなくなるではないか。なんと勿体無い。

 

 数十年もの間、腰痛に苦しむ人がいた。当然、あらゆる医療的、治療的方法を求めて様々な医療機関、治療院を訪ねて受療するも良くならなかった。縁あって当方で手技を行う機会があったが、わずか数回の施術で寛解せしめた。


 数十年というスパンはさすがに珍しいが、数年の間、手立てがなく痛みで苦しんでいる人は数多く、当流儀において、それらを完治もしくは寛解させるは日常茶飯時のことなのである。この一事をもってしても、立派な医療の一翼と言えるのではないか。

 

 さて、話を戻そう。
 葛根湯の目標は首のコリと悪寒である。
 虚証、実証はあまり関係なく、首こりと悪寒の兆候があれば、大体どんな人にも効く。首のコリと悪寒といえば、ある種の風邪の初期症状である。そこで、葛根湯は風邪薬として認識されるに至った。


 しかし、悪寒はなくとも、コリを目標にしただけでもコリが緩和されるので、首肩コリの緩和薬としても使用される向きもある。


 コリがキツく、喫緊の仕事に差し障りがあるのなら、応急手当てとして使用するのは仕方がないが、あくまで応急手当て的であって、薬である以上、常用すれば副作用が発生する。よって、コリ緩和薬という認識はしないほうが良いと思う。


 ある時、受講生から、葛根湯を首コリ&悪寒を目標にかぜ薬として服用するのなら、しかもコリを緩和することで効くのなら、風邪に手技を用い、コリを取ることによって、効かせることができるのではないか?という質問を受けた。中々鋭い質問で感嘆した覚えがある。

 

 首こり&悪寒という症状は漢方分類からいえば『傷寒』という病である。悪寒やコリを伴わずいきなり熱感から入ってくるのは『温病』という分類になる。


 葛根湯は『温病』に対してはさしたる効果を示さない。

 実は手技もほぼ同じことが言える。コリを伴い悪寒を伴う傷寒系の風邪の初期には良く効く。それは葛根湯に優るとも劣らないだろう。


 そして、温病系には残念ながら著効がない。免疫を高め、早く治すという意味では効くとも言えるが、そもそも温病状態では施術を受ける事自体が不快だろう(コリもなく熱が上がっている状態で施術を受ける気になるかどうか自分の身で考えると分かると思う)

 

 よって結論は傷寒系の風邪の初期には対応できるが、熱が上がりきって温病状態になった風邪には著効がないので止めたほうが良いとうことになるのである。

 

 もともと手技法は風邪を治すという役割を期待されているわけではないので、その為に来院するクライアントは皆無だろう。

 

 しかし、述べたように傷寒系の風邪の初期には葛根湯に優る効き目を示すのであるから、覚えて置かれると良いと思う。服用の注意が喚起されているアセトアミノフェン系の解熱剤を用いるよりもはるかに安全だ。

 

 クライアントに施術する機会はなくとも、もし身内が傷寒系の風邪に罹ったなら早め対応することで、早期治癒に導くことができる。一家の守り人として家人からリスペクトされるに違いない。株が大いに上がるではないか。

 

 家庭内での地位は盤石(かもしれない・・・・笑)

 

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