小胸筋

 小胸筋は大胸筋に隠れてしまって、見ることもできないし、直接触ることも出来ない。そもそも名前が「小」胸筋なので、なんだが重要そうでもない雰囲気タップリだ。


 ところが、この筋を筋解剖図で初めてみたとき、(これは・・・もしかすると整体的には重要な・・・もしかするとキモになる筋肉かもしれない)と直感的に思ったものである。人体に対する整体的な理解が未熟な時期ではあったが、何故か理屈抜きにそう思い至ったことをよく覚えている。


 後にこれは間違いではなかったと判明するのだが、何故か。
 まず小胸筋の骨格に対する付着位置に注目してみたい。


 起始は第3、第4、第5肋骨の前面。
 停止は肩甲骨の烏口突起。


 口でくどくど説明するよりも筋解剖図をみれば一目瞭然なのだが、要は肩甲骨の位置異常と第3、第4、第5肋骨の有り様に関わってくるということだ。もしここで小胸筋が凝って短縮したとしよう。すると停止位置が肩甲骨烏口突起なのであるから、肩甲骨の外側が下がる。


 ん?肩甲骨の外側が下がる?どっかで聞いたことがあるような・・・
そう、前回のブログ(鎖骨フェチ)で述べたように肩甲骨の外側が下がると鎖骨のV字形が崩れ、水平に近くなる。すると胸郭出口が狭くなり、手指の浮腫みやシビレが出やすくなるのである。肩こりは当然のことだ。


 トリガーポイントの関連痛として肩の前部の痛みを引き起こす(五十肩様)が、二次災害として手指のシビレを引き起こすともされている。これはこうした構造上の理由に依る。


 さらに肋骨を引っ張りあげてしまうので、呼吸器系に悪影響を及ぼし、もし既往歴があるならば、それを憎悪させ、あるいは新たな呼吸器疾患へ誘ってしまうかもしれない。喘息などの人に対し、首肩を緩め、斜角筋や胸部のアプローチなどを行うと発作が起きづらくなったり、症状が緩和するのは、胸郭出口を広げ、さらに肋骨ストレスを軽減するからである。


 これが、整体は単に関節の痛みや筋筋膜性疼痛に対して有効なだけではなく、ある種の内臓疾患にも有効な理由の一つなのだ。勿論、経絡反応によるツボ効果的なものもあるだろう。しかし、筋解剖図を眺めているだけでも、その治癒機序が理解できるところに整体の面白さがある。是非、この面白さにハマってもらいたいと思う。

 

 ともあれ、小胸筋はその名とは裏腹に重要性が「小」であるわけではない。


 10年ほど前のこと。
 コリ性の女性弁護士が来院されていたことがあった。
 その方曰く「ここでやってもらったら、3ヶ月くらいはもつ」と。


 3ヶ月はちょっとオーバーだとは思うが、少なくとも、そこらのマッサージハウスで施術を受けるよりは楽になるだろうし、その効果は長く持つだろう。またそうでなければやっている意味がない。個人で開業していて、その効果がマッサハウス並では、みんな便利なマッサハウスのほうに行くに決まっているではないか。その程度で成り立たせるには、格安にするか、クライアントとのコミュニケーションに際立った才能を持ち、人間関係を作っていくのがベラボーに上手い人でなければ無理というものだ。


 現在、前者はマッサハウス自体が格安化していて、それ以下にするには自分のプライドを捨てねばならないほどになっている。後者はそもそも、それほど抜群のコミュニケーターなら、この業界に入ってはこない。充分、他の営業職で高給を取れるはずだ。


 さて、弁護士という職業は相当にストレスがかかると思う。自分の判断一つで、或いは、文言一つでクライアントの法的権利や財産権が失われてしまうわけだから。ということは細心の注意を払って日常の業務をこなすことになるだろう。そうすると、精神の緊張が続いて、充分な解消手段を持ち得ない場合はコリが蓄積していく。僧帽筋負荷も半端ではないだろう。というわけで、僧帽筋を可能な限り緩めることになるのだが、もちろん、それだけでも相当に楽ちん感は違ってくる。だが、それでは芸がなさ過ぎだ。様々な情報を勘案した結果、小胸筋を重点にすべきクライアントだという結論に達し、それを実行した。その結果、先の発言につながっていくわけだ。


 決して重要性が「小」ではないという症例である。小胸筋狙いの施術なんぞ、普通のマッサハウスではやらないに決まっている。しかし、それを緩め、胸郭を広げることによって、単に首肩のみを緩めるよりも現実に長持ちするのだ。こういうを秘伝というのかもしれないが、胸部はデリケートなので、文章で教えられたくらいでは、さほど効果的な施術は期待できないだろう(上肢の経絡伸展も合わせて行わないと効能効果は半減する)。よって自己責任であることはお断りしておく。


 さらに小胸筋は猫背にも影響する。この筋の短縮が進行すると、肩甲骨が肩に覆いかぶさるような位置変化が起き得る。これを猫背と言わずして何というか。猫背は上部胸椎だけに目を奪われていてはその本質を見誤るのだ。

 

 まとめると、小胸筋トラブルは胸郭出口を狭め、慢性的な肩こりや手指のシビレの原因となる。また、肋骨引き上げストレスがかかり呼吸器系疾患の憎悪や新たな罹患の原因ともなり得る。さらに猫背の重要なファクターの一つでもある。よって上半身の施術ポイントとしてはかなり重要であり、今一度、筋解剖図でその有り様を確認することをお薦めする次第である。

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