ガクと読んでも、アゴと読んでもいいのであるが、一応整体という専門分野でのブログであるからして、ここはガクと発音とすることにしよう。

 

 顎はご存知のとおり上顎と下顎に分けられる。


 この上顎と下顎の咀嚼運動によって、食を味わうという至福の時間を過ごし、食べ物を砕くことによって消化器系の負担を減らし、栄養吸収を円滑に行うことが出来るわけだ。

 

 その上、ニンゲンは発声して高度なコミュニケーションを行うという他の動物にはない機能を持っている。その言語発声は顎の動きなしには行い得ない。
(いっこく堂は別・・・あれは、スゴイ)

 

 人生最大の楽しみにして、生きていきための必須行為である食物咀嚼。そしてニンゲンの証明とさえいえるコミュニケーションでの活躍。


 ことほど左様に顎は重要なのであるが、最近の人たちはこの顎がピンチであるという。

 

 もともと、ニンゲンの顎は華奢で壊れやすい構造をしている。
 (精巧な動きをする為に)


 大笑いしたときやあくび、絶叫などで割合簡単に外れるそうだ。アゴが外れることを下顎脱臼というのだが、構造上、下顎が前方にハズレてしまうことが多いらしい。(らしい、というのは経験したことがないからである)相当に痛いらしいから、いくら好奇心の強い私でも、その経験だけはゴメンこうむりたいと思っている。

 

 さて、下顎脱臼ほどではないにしても、何らかの原因で顎関節の炎症が生じて、関節円板が多少前方にズレて起きる現代人特有の症状がある。


 そしてそれが慢性症状となってシツコク苦しめる。

 そう!顎関節症である。

 

 なんらかの原因といったが、基本的には外傷性でもない限り、ストレスからくる歯の食いしばりや歯ぎしりなどから起きる。

 

 昔の人も当然、ストレスを受けて歯をくいしばったり、歯ぎしりだってしたはずだから、現代人特有の背景があるに違いないと思っていたら、今の子供は一回の食事に700回の咀嚼をするそうだが、戦前は倍の1400回も噛んでいたという記事を見かけた。つまり、軟食によってあまり噛まなくなって顎が弱くなっているとのことだ。


 しかも、哺乳瓶は顎の力を使わずに乳を吸い出すことができる為、母乳だけで育った子供よりも顎が弱くなる傾向があるというではないか。

 

 なるほど、現代人の顎がピンチであるはずだ。

 実際、重症の顎関節症は深刻である。口を開けると痛いというだけではなく、その付帯症状-肩こり、頭痛、眼の奥の痛みなどに苦しみ、それがずっと続く。

 

 極端な場合はそれが嵩じてウツ状態にまでなってしまう。

 何か解決策はないものか?


 なにせ治療を要すほどの顎関節症人口は日本だけで、300万人~500万人もいると言われているのである。

 述べたようにプレートやマウスピースを使っての治療は対症療法に過ぎないし・・・

 

 この病気の背景にはストレス、そのことによる歯の食いしばり、歯ぎしりがあるわけだから、根治させるにはその体質そのものを変えていかねばならない。

 

 さて、どうすればそれが出来るのか?ということなのだ。

 

 実は手技療法がよく効き、それを解決する可能性が高いのである。そして非常に残念なことに、このことはあまり知られていない。この事実こそ、この記事を書く動機ともなっているわけであるから、以下、その方法論について述べてみたい。

 

 まず、手技療法は顎関節症の付帯症状である肩こりや頭痛を即効的といっても良いくらいに楽にする。これでクライアントも治っていくのではないか、という希望も生まれるし、自信も付く。また継続した治療意欲の源泉ともなろう。

 

 そして全身的なアプローチを施していくことになる。
 究極的には心身の問題であるから、首、肩、顎回りだけの施術では根治しないのである。


 経絡的な発想から言っても、顎関節は「脾経」や「小腸経」の支配が強い。ところで、「脾経」は膝関節の支配も強い。所謂、餌取り行動のために使う関節とその餌を咀嚼するために使う関節が同じ経絡の支配が強いというのは興味深い。

 

 しかも、膝関節と顎関節はその構造がそっくりで、まるで膝関節を小さくして顎に移植したようである。


 きっと、神様はニンゲンを作るとき、部品の共通化を図って、コストダウンに務めたのであろう。神は優れたクリエイターであると同時に優れたコストカッターでもあるようだ。

 

 このようにある部位とある部位がほとんど同じような構造、もしくは構成によって出来ていることを専門的(東洋医学的)に「全息胚的に一致する」という。

(他、腎臓の細胞と内耳細胞が瓜二つであることは、よく引き合いに出される代表格だ)

 

 膝関節と顎関節が全息胚的に一致していて、同じ経絡の支配を受けているのだけでも面白いのに、実際にこれを治療に活かせることもあるから愉快だ。


 例えば、膝痛の軽症タイプなら、よく噛むことを習慣づけるだけで、あっさり痛みが消えることがある。逆に膝を鍛えるだけで、軽症の顎関節症の痛みも消える。

 

 重症な場合はそうもいかないのでどうするか、ということだが、述べたように全身的アプローチが必要だ。直接の支配経絡である脾経、小腸経を中心とすると良いだろう。


 小腸経は精神的にショックを受けたり、ズシンと腹に堪える出来事に反応し、それがトラウマとして残り、歪みとして固定する。まずこのトラウマを解放していかねばならない。

 

 腹部、背部、四肢にそれぞれ小腸経や脾経の反応ポイントがあるから、充分に緩める。


 そして頭部の押圧を入念にすることによって、脳膜の歪みを是正する(胆経、三焦経、膀胱経)。脳膜の歪みは眠りを浅くし、歯ぎしりを起こしやすくしてしまうからだ。


 また、「もの言わぬは腹膨るるのわざなり」のとおり、言いたいことをガマンするストレスは大腸経の歪みとなり固着するから、大腸経の処理も必要かもしれない。

 

 このように身体に根付いたトラウマ的ストレスを除去しながら、直接顎関節を統御している咬筋や外側翼突筋にアプローチして、さらに関連深い胸鎖乳突筋や各頚筋群を入念に緩めることが出来れば、根治に近づくことになる。

 

 治療家や医療関係者諸氏が、鍼灸や温熱光線療法、ブレートによる矯正法など、楽になる方法を必死に模索しているようだが、手技療法ほど心身の本質にアプローチ出来て、かつ即効的に効くものを知らない。

 

 一考に値するのではないだろうか。

 

※顎関節症には母趾にある「上顎下顎」という反射区を熱心に揉むことによって、症状が寛解するという意見がリフレクソロジストから寄せられる。もちろん、それを否定することはないが、上顎下顎の反射区には脾経が走行していて、脾経上の重要穴もある。その操作が脾経反応ではなく、反射区反応だとする証拠はないだろう。もちろん、脾経反応だという証拠もないが・・・どっちにせよ、楽になるのなら、作用機序などクライアントには関係ないことである。

 

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